一般社団法人シン音泉
Vol.14 《新温泉町》
江戸時代から続く浜坂針と呼ばれる縫い針の産地、兵庫県美方群新温泉町。その伝統的な技術は、現在も同町にあるレコード針の老舗「日本精機宝石工業株式会社」へと受け継がれています。そして代表取締役を務める仲川さん(写真左)は、2024年の7月に「一般社団法人シン音泉」を新たに発足しました。レコードでまちづくりを目指す団体です。
―レコード×まちづくり
一般社団法人シン音泉では毎月レコードを聴くイベントの開催や、旅館やカフェなどの施設にレコードを設置するといった活動をしています。始まりはコロナ禍に観光業とコラボしたらどうかという声を竹村さん(写真右)が掛けたことでした。当時竹村さんは兵庫県産業労働部長で、現在では一般社団法人シン音泉の理事を務めています。
竹村さんの声掛けから工場見学だけでなく、レコードが楽しめるオープンファクトリーを始めた仲川さん。その後すぐに新温泉町でコロナ禍において行われた兵庫県唯一の開催となった花火大会に、約5万人が押し寄せました。「ネットで見れるけどやはり本物がいい」、「小さい花火大会でも本物は違う」という声を聞いて、さらに観光との結びつきを感じ発足に至ったと言います。
「縫い針の後にレコード針の会社を創業したんだと思いますが、これははっきりとした記録がないものの、約150年程の歴史になります。この歴史を活かして、音楽の聖地としてまちづくりができると思いました」と仲川さん。
「カニや温泉が有名な新温泉町ですが、世界規模の老舗レコード針の会社があるんです。浜坂針から続く歴史に、残っている昭和の町並み。このまちづくりは新温泉町でしかできません」と続けて語る竹村さん。自身もレコードが好きで、約4000枚のレコードをシン音泉に寄付しています。
まちづくりは資金繰りの大変さや、活動が継続しないといった理由で成功することは難しいのだと竹村さんは言います。そのためレコードを好きな人や好きになってくれた人が、自発的に足を運んでくれるようにとゆっくり活動している最中だそう。毎月開催しているイベントも、広報はほとんどせずに口コミで人が来るようになりました。

(画像:レコードを自分で選んでかけられる体験コーナー。)
「したいと思ってくれる人がいないと、私たちが抜けた後に終わってしまいます。なのでじんわりと温泉のように温めて広げています。幸い地域の皆さんがレコードを置きたいと、協力的な声を掛けてくれたりと大変ありがたいです」と仲川さん。
現在では、新温泉町にある旅館やカフェ等の7箇所でレコードプレーヤーが設置されていて、音楽を楽しむことができます。さらにはレコード体験として、好きなレコードを自ら選んで掛けられる施設もあります。
―ひとつになる音楽

(画像:2025年8月9日、10日に開催されたDJイベントの様子。<左>DJブース。<右>参加者たち。)
毎月開催しているイベントでは、テーマに合わせてレコードを流したり、参加者が選んだレコードで昔話をすることが中心だと言います。中でも参加者が楽しみにしているのは竹村さんの解説です。歌詞やメロディーの流行り、社会情勢など様々な観点から曲を解説し、参加者も当時の記憶が蘇ります。
「音楽と香りは過去に戻れると言いますが、イベントでも『あの頃こんなことがあったよね』と過去の些細な出来事や日常的なことを思い出す人は多いですね。人しか感じないと言われているノスタルジーな部分は大切にしたいです」と仲川さん。イベントは1時間を目安にしているものの、曲のリクエストや昔話から中々収まらないそう。
そんなシン音泉では、昨年の8月に同町にあるコワーキング・交流スペース「TOJI」の改装オープニングイベントを2日間にかけて開催しました。プロのDJに来てもらい、本物のディスコをイメージしたイベントです。2日間で約90名程が訪れ、地域の方々だけでなく宿泊者も足を運びました。
「みんなが音楽で1つになったことに驚きました。好きなアーティストのライブであれば分かりますが、そうでなくとも歌ったり、少し体を動かして踊ってみたりと一体感が生まれたんです。音楽には力があると思っていますが、こういった体験をすると実感しますね」と仲川さん。
開催において大変なのは、竹村さんが担当する選曲だそう。プログラムは参加者の方に楽しんでもらえるようにと毎回悩むそうですが、懐かしむ心を大切にし、ベタな歌謡曲を中心に選びます。
「音楽は聴いているだけで一緒にいられます。イベントで騒いだり、はしゃいだりするのが苦手な人や、自分の話をしたくない人、みんなが一緒にいられる空間なんです。元気な人も、ちょっと心が疲れた人などもよく参加してくださっていて、音楽が皆さんの居場所になっています」と振り返る竹村さん。イベントを開いていくうちにファンと共に協力者も増え、現在のシン音泉は様々な方の想いや、アイデアが詰まっていると言います。
―音楽の聖地として

(画像:カフェ「98℃」に設置されているレコードプレーヤーと、竹村さんの寄付の一部である約1500枚のレコード。)
オープンファクトリーも海外の方が多く足を運んでくれるという仲川さん。レコード好きが足を運んでくれている現状に「町が音楽と活気に溢れていたら、好きな方が自ずと足を運んでくれるのでは」と言います。
「地域の方々の協力を得て『今月はサザン・オールスターズ』といったように、町で流れているレコードのアーティストを絞る期間があっても面白いですよね」と竹村さんもアイデアに溢れている様子。
いずれは温泉が湧き出ているように音楽が聴こえて、湯治のように音楽で癒える空間を目指すシン音泉。地域の誇りや活性化に繋がるようなまちづくりを考えています。DJイベントは今年も開催を予定しているそう。その他イベントの詳細は、シン音泉の公式HPから確認できます。ぜひ一度、温泉のように心温まる音楽を聴きに足を運んでみてはいかがでしょうか。
| Name | 一般社団法人シン音泉 |
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| Info |
■ シン音泉 [問](HP)https://shin-onsen.com [Instagram]https://www.instagram.com/shin_on_sen/ |