にほんご広場ハピタン
Vol.10 《新温泉町》

雄大な日本海に面している兵庫県美方郡新温泉町には、現在200名以上の外国人住民が暮らしています。「にほんご広場ハピタン」は、同地域で暮らしている外国人に向けて、言語のサポートやイベントを実施している日本語教室のボランティア団体です。
―「にほんご広場ハピタン」の始まり
(画像:<左>団体の活動場所の一つである、浜坂多目的集会施設。<右>日本語教室と合わせて実施してきたイベントの風景)
「にほんご広場ハピタン」が発足したきっかけは、1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災にあります。震災当時、外国人の被害が大きかったことから、兵庫県から県内の各市町に、防災の役割も担う日本語教室の開設を促す動きが起こりました。新温泉町でもボランティア募集のお知らせがあり、同団体はその時に集まった有志の方々で2015年に結成されました。
団体内で、週3回ほど外国人技能実習生や外国人語学教師(ALT)を対象に、日本語の勉強の指導を行ったり、年に数回イベントを実施したりしています。2024年には、県からのサポートを終えて、独立した地域団体として活動を始めています。
「教室に日本語を学びにくる外国人の目的やレベルはそれぞれです。仕事で必要だったり、生活に困らない程度の日常会話や日本語の更なるブラシュアップであったり。国も中国・インドネシア・アメリカ・ベトナムなど、様々です。イベントは、普段から寮と職場の往復が多い、彼女彼らの交流の場となればと始めました」と教えてくれたのは、「にほんご広場ハピタン」代表の西村美幸さんです。団体発足当時から仲間と一緒に、日本語教室とイベントの企画運営に携わっています。
同団体のイベントではこれまで、お花見やそば打ち、書道体験といった日本文化の体験をメインとして、他にも日本語の勉強に来てくれている方側の文化を知ろうと、料理を教えてもらったりする会を開いてきました。
一通りイベントを実施してきた中で「自分たちだけじゃなく、もっと外と繋がっていけたら」と 、2021年より教室外で行うイベントの実施もしています。その一つが、「新温泉町多文化共生プロジェクト」です。2024年6月〜11月にかけてホタル観賞、藍染め、芋掘り、ちりめん人形作りなどといった全4回の体験イベントを開催しました。
―教室を飛び出して、地域と繋がろう!
(画像:<左>2024年8月3日に新温泉町赤崎地区で体験した藍染め作品を、浜坂多目的集会施設の文化祭で展示した際のもの。<右>藍染め体験後の集合写真<団体公式Facebookより引用>)
「新温泉町多文化共生プログラム」は、町内にある公民館に出向いて活動するイベントです。各地区ならではの体験を組み込んだ同イベントは、地域住民と外国人住民が、お互いの考えや文化を理解し、交流する場となればと企画されました。
「6月は久斗山地区(くとやま)で、みんなでカレーを作って食べた後に、明かりもないすごく真っ暗なところへ行って、ホタルを観る会をしました。8月には赤崎地区(あかさき)の公民館で、手ぬぐいやTシャツの藍染め体験をしました。『講師の方の言う通りに作れたかな』と思って見てみたら、みんなそれぞれ少しずつ違うんですよ。それもまた面白くて」と西村さん。
10月に諸寄地区(もろよせ)で実施した芋堀り&お芋クッキング体験イベントでは、雨で急遽、さつまいもクッキングのみとなりました。まさかのハプニングでしたが、ちょうど公民館の1階で、地域の銭太鼓や傘踊りしているグループと出会い、一緒に傘踊りをしたり、そのお礼に自分たちの作ったさつまいものお菓子を渡したりなど、各月のエピソードは尽きません。
イベントに参加した外国人の方からは「自分では行けない場所に行って、新温泉町にこういう場所があると知れて、面白かった」や「鹿に遭遇して、びっくりした」などという感想があったという西村さん。自身も含め日本人の参加者からは「インドネシア人が『向こうではカレーという食べ物を食べたことがなかった』。だけどスパイシーなものは好きなので、カレーに七味唐辛子を追加でかけて『おいしい』といっている光景が新鮮でした」と続けます。
広報活動では、事前に公民館の方々が地域住民に向けてイベントのアナウンスを流してくれました。その他にも、地域住民をはじめ、たくさんの方の協力のおかげで、年配から家族連れの方、団体メンバーでもある地域おこし協力隊の方といった方々と外国人住民との交流が可能になりました。
―受け継がれていく、ここでの思い出
(画像:<左>2024年10月19日に諸寄地区の公民館で、偶然体験した傘踊りの風景。<右>同日にイベントで作ったさつまいものお菓子の一つ、アメリカ風の「マシュマロスイートポテト」<団体公式Facebookより引用>)
団体発足当時は、地域にいる外国人住民とどこで出会えるのかなどが手探りでした。出会えても、教室に通っている技能実習生やALTは、基本的に任期が決まっています。そのため、任期後は入れ替わりでまた別の外国人移住者が来るようになります。継続的にサポート活動するために、どう繋がっていくかが課題でもありました。
それでも外国人住民に対して何かできることはないかと活動していると、教室に通っていて帰国する生徒が、「ここいいよ」と後輩に日本語教室の紹介をしてくれるようになりました。
西村さんは、同じ町民として誰もが「暮らしやすいな。安全だな」と思ってもらえる一つとして、日本語教室が役に立てばと、防災減災のための準備と周知も進めています。
「日本語の中にも『やさしい日本語』というのがあるんです。例えば『高台へ避難してください』ではなく『高いところへ逃げてください』という風にすると、ある程度勉強している人なら通じやすくなります。これは外国人に限らず子どもやお年寄り、障がいのある人にも通じやすいとされているもので、いざという時に役立ちます。防災イベントでは、災害時に足の裏をケガしないように新聞紙で簡易スリッパを作ったり、お湯だけでお菓子を料理に変える方法を紹介したりしました」と西村さん。
団体での活動経験を生かして、外国人の方もわかりやすい避難案内のアナウンスをしてもらうように、町に掛け合った結果、協力を得ることもできました。
「ボランティアも随時募集しています。黙っていたら来てくれるものでもないので、こちらからできる限り声をかけるようにしています」という西村さんからは、活動を絶やさず、前進して行きたいという意志が伝わってきます。
同団体の活動や、イベントの問い合わせは公式SNSのDMよりお問い合わせください。
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■ にほんご広場ハピタン [問] (facebook) https://www.facebook.com/nihongo.hapitan/ (instagram) https://www.instagram.com/nihongohiroba_hapitan/?hl=ja |